月夜見
 残夏のころ」その後 編

    “秋深まりて”


そういや昨日は“のちの月”っていう晩だったそうで。
九月のお月見の“十五夜”と対になってて、
十五夜を眺めたんなら、それと同じ顔触れで同じ場所で
こっちの満月も眺めないと縁起が悪いって言われてたんだと。
でもな、あのシャンクスにしては物知りなこと言うよなって思ってたら、
店頭販売の月見団子を
“銀嶺庵”のご隠居自ら搬入して来たレイリーのおっちゃんが、
『ああそれはそうなんだが、実を言えば…』って、
ホントのところを教えてくれて。
それによったら始まりは、
女の人と遊べる花街ってところで、
遅くまで居て月見をした贔屓のお客へ、
また来ないといやぁよって手紙を出したお姉さんたちが
こんな話を知ってます?って広めた話が元なんだと。
そっかぁ、だからシャンクスが知ってたんかぁ…。
(おいおい、甥御さんたら…)





全国的にそういう日ではありましたが、
台風の名残りのものか雲が厚く垂れ込めていたため、
覚えていた人であれ、肝心な月は観られずで
がっかりした人が多かったんじゃあなかろうか。
東京接近した中では観測史上最大級とか言われた大型の台風は、
伊豆などで大きな被害を出して通過してって、
そのついでに、
それまでしつこく各地にへばりついてた“残暑”も
あっさり拭い去ってったものだから、

 「うう〜〜〜、寒い〜〜っ。」

寝癖か、いやいやそもそもそういう“くせっ毛”なのか。
質はいいのにあちこち撥ねまくっててまとまりの悪い髪を、
湯上がりの子犬みたいにぶるるっと震わせ、
首をすくめるようにし、自分の二の腕を自分で抱え込むようにして。
いつもお元気な彼にしては、
ちょっぴり負け負けな様子で背中を丸めておいでであり。

 「何も俺が朝番のときから
  冷えなくてもいいじゃんか〜〜〜。」

朝早くから、
洗い立ての葉もの野菜の束を山ほど捌く身には、
なかなかキツイ季節の到来でもある。
勿論のこと、農家の方々の苦労に比べれば大したことでないのだし、
毎日早起きして世話をして、一年かけて収穫なさった野菜は、
どれもが正に宝物、大切にせねばならぬというのも重々承知。

 “そんでもやっぱ、寒いもんは寒いって〜〜。”

動き回ってる間はどうってことない。
むしろ着込んでると蒸してくるし動きにくいしで、
途中から“ええい”と脱ぐくらいなんだけど。
それが落ち着いて、よし休憩と椅子に腰掛けて何分か。
汗が冷えたのもあろうけれど、
そんなもんじゃあないほどの
冷え冷えキンキンが足元からよじ登って来たもんだから。

  ああ、そういう季節になったか、と

それこそ うっかりしていて用意もなかった身への
この急襲は結構厳しキツイというもの。

 “晴れてたからって天気予報とか見んかったもんなぁ。”

意外と気づかないのが足元で、
何でこんなに甲のところや足の裏がツルのかなって思ってたら、
ルフィちゃん
それって足の裏が冷えてるからだ…って
おばちゃんたちから言われたのが一昨年。
分厚い靴下もいいけど、
動き回らん間は乾いた段ボールの上に居ると断然違くて、
そいで、割としっかりしたのを
水が掛からないようにって わざわざ取っとくようになったんだっけ。
足首を暖めるのも効くとかで、
エンセキガイセンっていうサポーターも探して揃えたし。
お客の波が引いたときなんかは、
膝掛けしとかんといかんっても言われたなぁ。
まあそっちは日曜の午前中とか遅番のときの話だな。
使い捨てカイロも出しとかんとなぁ。
マフラーはまだ早いかなぁ。
俺、寒いのは強かったんだけどもなぁ。
まあ、ここって水場も同然だもん、
しょうがねぇよなぁ……………………


   ………………………………………お♪


ほぼ屋外エリアのテント下にある、
自分の担当する売り場スペースへ。
今時分の葉ものというと
ホウレン草やミズナ、コマツナ、ハクサイなどなどを並べ終え。
開店前までのお勤めを終えて、
更衣室のある店舗まで、
寒いぞ寒いぞと、
薄い肩をすぼめたままで
とぽとぽと歩んでいたルフィさんだったが。
その進行方向のちょおっと手前の先、
彼も自分の担当を終えたものか、
同じところへ向かうらしい頼もしい背中を見つけた途端、

 「………vv」

寒いよ寒いよと、その身と同じく気持ちまで
小さく小さくすぼみがちだったところへと。
お耳があったら猫ヒゲがあったら、
ええいおまけだ、お尻尾があったなら。
間違いなくピピンッと素早く立っての
“標的発見♪”という
ワクワク反応となっただろうこと伺わせるほどに。
そりゃあもうもう、
いかに嬉しいかが手に取るようなほど判りやすくも、
に〜〜〜〜っこしとお顔をほころばせてしまっておいで。
そしてそのまま、

 「ぞろ〜〜〜っvv」

あと数歩を駆け足で詰めると、
そちらさんも彼なりに 心持ち丸めかけてた大きな背中へ、
ど〜んっと体当たりした小さな先輩さんであり。

 「えっ、どわ…っ、たっ、とと。」

気配を察して反射的に避けかけたが、
肩越しに振り向いて見えた“もの”へハッとし、
そうしたらどうなるかへの反射が働き、急停止したところへ。
容赦なく どすんとぶつかって来た年下の先輩さんだったというに、
ようも転げなかったねぇ…という順番だったというの。
そこまでの深いところから気づいたのは恐らく、
2階の事務所からたまたま見ていた店長さんと、
駐車場から見ていた副店長さんくらいのものだったろうけれど。

 「上がりか、ゾロ。」
 「はい、そうっスよ。」
 「じゃあ一緒に帰ろ、ガッコ行こうぜvv」
 「そうッスね。」

うあ ぬくいぞゾロの背中vvと、
剥がれるつもりはなさそうな
子ザル、もとえ子犬のような無邪気さを背負ったまま、
特に大変そうでもなく歩き始める剣豪青年だったれど。

 “背中ってのは助かったよなvv”

ルフィの うくくと嬉しそうな様子は十分伝わるだろし、
そんな感触を そこはかとなく
彼もまた嬉しいとお思いのお顔は、
背中の誰かさんへはなかなか見えないしで。
何てまあ微笑ましい奴らだろうかね相変わらずと、
苦笑がこぼれる大人の皆様に見守られ。
これからこそくっつきまくりし甲斐もあろう季節の到来、
せいぜい大っぴらに温まるといいよと、
周囲からの眸もなかなか暖かなところなようでございます。





   〜Fine〜  2013.10.18.


  *いやもう寒いっ。
   ちょっと何日か前までは、
   十月なのに真夏日ってなに?とか言ってたんですのにね。
   少しずつとか、情緒のある移り変わりのしようがあろうに、
   ここんところの秋の立ち去りようは
   乱暴ったらこの上ないものばかりな気がしてなりません。

   とはいえ、
   くっつく理由に事欠かない季節の到来でもありますよねvv
   いやもう、ウチみたいなだだ甘い話ばっかのところでは、
   寒いのが何だどうした、頑張って書かんかと、
   皆様どうか、応援のほう よろしくです。(くぉら、他力本願寺。)


めーるふぉーむvv ご感想はこちらvv

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